レシート買い取りアプリOne
高校生がレシートの写真を10円で買い取るアプリを開発したらしい。レシートにはいつどんな商品がいくらで取引されたのかが記されている。これはなかなかに貴重な情報である。
つまりレシートから情報を集めて、情報を欲する企業に売ろうというのが今回のアプリの狙いである。以下にも現代的な発想であり、これを実際にアプリとして開発してしまう高校生が現れるなんて、まさに天才である。
なにやら3日間で20万ダウンロードと凄まじい勢いで広まっているアプリらしいのだが、今はサービスが一時停止状態で、ガソリンスタンドのレシートのみを買い取りますという状態らしい。
なにはともわれ、素晴らしい発想とそれを実現する行動力を持った人間が、しっかりと年齢・性別問わず評価される時代なのは素晴らしいことである。
ただ、今回の記事の本題はこのアプリに関してではない。
このアプリの出現と、それに対する様々な反応を受けて、もともとすでに浸透しているサービスについて見直そうという話である。
ポイント付与という戦略
クレジットカード
今では馴染み深い「ポイント」という制度。近年はクレジットカードをステータスではなくポイントの付与率で選ぶ人も多いのではないだろうか。僕はこれまで楽天カードを利用してきたが、最近Amazonのprime会員を無料付与してくれるAmazonのゴールドカードを発行した。
ポイントを付与される我々消費者側はもちろんお得である。ポイントをお金のように使えるのだから多ければ多いほど嬉しい。ところで企業側はなぜこのようなポイントを付与してくれるのだろうか。なぜ、ポイントを沢山消費者に上げてまでシェアを獲得しようとするのだろうか。
クレジットカードのビジネス
クレジットカードの場合は、クレジット決済を可能にした店舗は顧客の購買意欲が高まると考えられる。カード会社はクレジット決済機能を店舗に提供することで、店舗から手数料をもらうというビジネスを行っている。
例えば消費者が100万円をクレジットカード決済したとしよう。するとカード会社が店舗に代わりに100万円を払う。しかし、100万円の現金など普通は持ち歩かないのであって、このような買い物が成立したのはクレジットカードのおかげであるという訳だ。だから実際にはカード会社は店舗に95万円しか払わない(この場合手数料5%というわけだ)。
その後、消費者からカード会社に100万円が戻って来ればそれだけカード会社は儲けである。あるいは分割払いで利息もついてこれば更に嬉しいわけだ。
もっと少額の売買でも理屈は同じだ。この場合、分割の利息は期待できないにしても、店舗から手数料をせしめることが出来るので、やはりカード会社は儲かる。従って、カード会社のやるべきことはとにかく消費者に自分たちのカードを使ってもらうことである。そのための客引きとしてポイント付与は大いに使えるというわけだ。
ポイントはクレジットカード特有ではない
カード会社の場合はカードを使って消費者が買い物を行うたびに、店舗側から手数料という形で儲けを出してきた。消費者にポイントを1%付与しようが、それよりも高い手数料を店舗から取っているので問題ないのである。とにかくいろいろな人にいろいろな場所で、自分たちのカードを使ってもらうことが重要なのである。
そのためにカード会社にとってポイント付与というのはかなりの武器なのであったが、よく考えてみると、カード会社でなくともポイントを付与していたりしないだろうか。
例えば現金で購入したとしてもTポイントが貯められたり、Rポイントが貯められたりということは普通にあるではないか。これらは一体、ポイントを付与している企業にどのようなメリットが有るのだろうか。
クレジットカードに関する補足
クレジットカードのビジネスは、3つの要素で成り立っている。
1.VISAやMasterCardといった「ブランド」
2.会員獲得や会員との信用取引を担う「クレジットカード発行事業者(イシュア)」
3.加盟店向けの業務を担う「加盟店開拓事業者(アクワイヤラー)」
の3つである。ブランドとイシュアとアクワイヤラーを1つの会社がやっているケースもあるだろうし、分担しているケースもあるだろう。とりあえずビジネスの1つとして店舗から手数料を取ったり、消費者(カード利用者)から利息や手数料を得るという方法があるということだけ理解いただきたい。
顧客の獲得
ポイントの付与をされた消費者は、いつかポイントを使わなければいけないという気持ちになる。
そして当然ながらそのポイントが使える場所は制限されている。すなわちポイントを付与している側は、購買者の「購入する場所」をコントロールできる。
楽天カードを使って街で買い物をしたならば、楽天ポイントがどっさり貯まる。だから使わなければならないと思って、僕は楽天トラベルで旅行の予約を行うのである。もちろん僕には至って損は無いのだが、楽天を経由するということをついついしてしまう。
本などもたまに楽天で買う。楽天ポイントがなければ、間違いなくAmazonしか見なかったところだが、ポイント付与や新規客の獲得に大いに役立つ。
優良顧客化
ポイントがあると購買意欲も高まる。しかも必要以上に高いものを買いがちだ。
ポイントが500ほどついていたとしたら、このポイントを使うために500円ピッタリの品物を買うのだろうか。そうではないだろうと思われる。1500円のものを1000円で購入するために500ポイントを使うだろう。
ポイントピッタリの買い物なんて難しいから、大抵はポイントより高い何かを買ったり、気分がいい時には普段買わないようなものを少し贅沢して買ってしまったりするのである。
顧客の囲い込み
そして、ポイントの魔力に取り憑かれると、このポイントを貯めて使いたくなってしまう。同じくらいの値段ならば、ポイントが付く方を選ぶし、ポイント10倍デーならなおさら選ばない手はない(楽天の話ばかりですまん…)。ポイント貯めたいがために現金で事足りるところをクレジットで払ったりしてしまう(そして消費者側にデメリットがまったくないのだ)。
これでまんまと自分たちの土俵にお客さんを囲い込むことができるわけである。
情報の獲得
そして、もうわかっていると思うが、消費者がポイントを獲得する際には、消費者を識別するIDとポイントを付与するための購入という動作が紐付いている。
ポイントに付随する顧客IDと共に、誰が、何を、いつ、どこで、いくら、購入したかがすべて記録されているということだ。だから、購入金額の1%くらいポイントを付与してやっても全く損ではない。
ポイント付与の代わりに企業は情報を頂いていっているのだ。
これはまさに冒頭で述べたレシート買い取りアプリがやろうとしていることである。これが完全にデジタル化されているものが、ポイント付与という戦略なのである。
得られた情報はどこかに売却されるかもしれない(個人を特定するレベルではなく、年齢と性別、購入ジャンルと金額くらいの属性で)。あるいはこのデータを元に自分の企業の販売戦略を考えるかもしれない。
いずれにしても情報は今の社会で極めて大きな武器であることは間違いない。
なぜにレシート買い取りアプリが話題になったか
ここまでの話の通り、購買情報というものを集めるということ、そしてそれを集めるために金銭的なメリットを消費者に与えるというのは、決して目新しいモデルではないのである。にも関わらず、このレシート買い取りアプリがここまで話題になったのはなぜだろうか。
高校生が作ったという事実
1つ考えられるのは高校生が作ったということである。
自分が高校生だったときはどうだろうか。僕の場合ビジネスのことなんてなんにも知らなかったし、ITにも疎かった。サッカーをやって授業中寝ていた不良少年であったに違いない。そんな高校生の自分と比較しながら、こんなサービスを作り上げてしまうことには驚きを隠せなかった。
そういう気分の人はたくさんいるのではないだろうか。
もしもこのサービスを提供し始めたのが、IT大手のNTTデータや、EC大手のAmazonや楽天、広告大手の電通やGoogleだった場合、さほど驚かないどころか「一体なにをやってんだ?」くらいの感覚になってしまったのではないだろうか。
まずはこういう(少し性格の悪い)考察が考えられるということを念頭に置いておいて欲しい。
これまでのサービスでカバーできなかった領域
あるいはこのようにも考えられる。クレジットカードやポイントサービスを積極的に使わない層もいる。「ポイントを集めても使わないから良いや」という人や、「お金は徹底的に現金派」という人も中にはいるだろう。そういう人たちの情報は、従来の方法では集めることができなかったはずだ。
だからあえて、極めてアナログなレシートというデータを集めるに至ったのではないだろうか。デジタルに追従しない人間の情報を確実に拾い集めるサービスというわけだ。
しかもこれは決して、従来のデータを集められないと言っているのではない。レシートはクレジットで決済した場合でももらうことが出来るため、ポイント集めに非常に積極的な人間の情報も同時に集められると期待できる(むしろポイントに熱心な人ほどレシートで10円が得られる大きさをよく実感してくれるはずだ)。
つまりこのレシート買取サービスで得られる情報の密度は、下手したら従来のポイント付与サービスよりも濃いのかもしれない。
この考察は少々ポジティブすぎるだろうか?
日本円という現状万能の通過
実はこれが一番大きいのではないかと思う。
要するに利用に制限のあるポイントというものではなく、何を買うにも万能に使うことの出来る日本円での換金というところが大きいのではないだろうか。
楽天ポイントは溜まりやすいが、楽天市場でしか使えないのである。僕は少しお金に余裕があるときは、いつもより贅沢な料理を食べたいと思うタイプだ。だからポイントがレストランで使えるととっても嬉しいのだ。
しかし、(国内の)どんなレストランでも使える通貨なんて、日本円しか知らない。だからポイント付与と現金だったら現金の方が圧倒的に嬉しい。
ポイント付与という戦略を見つめ直す
ポイント戦略のさらなる拡大
ポイントの活用範囲を広げる
ポイント戦略の改善点は、やはり何と言ってもポイントの利用制限にあると思われる。もしも現金でもらえるならばそれが一番嬉しいに決まっているのである。
だから、ポイントが現金と同等か困らない程度に広い範囲で活用できるようにする必要がある。だから、ポイントの相互交換などのサービスが出てきたのだろう。
しかし、これではポイントで囲い込みをしようとしていた企業にとっては、ある意味ダメージにもなりかねない。
サービス内容それ自体を拡大する
ポイントの活用はあくまで自社でしか行なえません!ということになっても、自社サービスがかなり充実していれば問題ないであろう。
要するにたとえば楽天なら旅行も日常品もすべておまかせ状態なので、現金を持っているのと同等の使用感なのである。もちろんAmazonもかなり良い線行っているであろう。ほとんどのものをここで済ませることができてしまう!というくらいにサービスを拡大すれば良いのだ。
また、サービスが充実していれば、ポイントの相互交換を実施していてむしろ有利に働く。他のポイントを集めていた潜在的顧客を引き込むことにもつながるといえばつながるだろうから。
情報をしっかり獲得し、分析する活用する
そしてサービスの充実には情報が欠かせないのだ。ビッグデータを取ったところが勝ちという雰囲気が感じ取られないだろうか…!?(日本はこれに乗り遅れてないだろうか!?)
そういう観点でEC系、Web系は極めて強いと言える。ITに明るい国が、ビジネスで伸びるのもよく分かる話だ(時折、技術力の差が!という話があるが、ITとの向かい方の問題だと思う)。
決算システムを内製化する
地味だがここも重要だ。
楽天のようなECサイトを持ちつつ、クレジットカードも扱っている会社はかなり強い。なぜならポイントを付与しつつ、顧客を自社に引き込み、ポイントの付与率や適切なサービスでもって顧客を囲い込みできるだけでなく、
その中で生じる送金にまつわる手数料を削減できるためである。
何を言っているのかというと、仮に買い物に応じてポイントを付与して自社で使えるというだけであるならば(例えばTSUTAYAなど)、囲い込みや情報の取得はできても、手数料を他社に取られてしまうケースがあるからだ。
今はクレジットカードだけでなくデビットカード、電子マネーなど様々な決済システムが存在している。
ポイントの相互交換ができたりなど、ポイントが溜まっていくというのは当たり前である中で、以下に簡単に便利に決算ができるかというところが消費者の興味になりつつある。
決算方法が多様化してしまうと、このシステムを自社でガッチリ握っている方が、手数料を取られる機会を断然減らせるわけだ。
日本企業は太刀打ちできるのか?
ちなみに何度も申し訳ないが、楽天はこの辺しっかりしている。クレジット、電子マネー、銀行、ID決済、楽天キャッシュなど、金融面の整備も極めて徹底的に充実させている。恐ろしい企業だ。
楽天は日本で最も成功しているポイント戦略企業と言っても過言ではない!(僕調べ)
とか言いながら僕はAmazonばっかり使ってるんだけどさ。サイトのみやすさが全然違うというのと、Amazonのサービスの充実が凄まじすぎて使わざるを得ないのだ(prime会員最高だよお)。
最後に
ってなわけで、自分なりにレシート買い取りアプリの話から、ポイント付与の戦略を考え直してみました。
ポイント付与+EC+決済システムは、なかなか完成されているビジネスモデルだと思うのだけども、ブロックチェーンの出現でこの辺が完全に平等になるかなという期待も実はあったし、まだ仮想通貨で決済が行われる世界を想像している(仮想通貨に突っ込んだ資産は今や半分の価値になってしまった、げっほげほっ)。
僕はこのあたり完全にド素人なんだけど、本当は思っている以上に進展していて複雑な世界なのだろうとも思っている。ちょっと詳しく勉強してみたいかもなぁ。
よし、Amazonか楽天で働こう。