はじめに
ボクはガチガチの理系人間である。論理的思考こそか正義であると信じていたときもあったし、人はみなそうであるべきだと考えていた時期もあった。
正直、自己啓発本であるとか心理学の本であるとかは滅多に読むことがなかったし、ずっと胡散臭いものだとも思って生きてきた。その手の人間の振る舞いを述べる本は総じてその著者の人生の感想文程度の話だろうという気持ちだったのだ。
その手の本も読むようになったのはココ数年の話である。
とにかく読んでみてから自分で判断しようと思った。スマホゲームをやるくらいの時間なら、読書の時間に当てるのは容易だ。本の中身のほとんどが無駄だったとしても、まあ、速読の練習くらいには使えるだろうと考えるようになった。
そして、ついに読破した「影響力の武器」という本。本当に読んで良かったと思っている。
本書の中身
簡単な目次
全8章で構成されており各章は以下の題目である。
- 影響力の武器
- 返報性
- コミットメントと一貫性
- 社会的証明
- 好意
- 権威
- 希少性
- 手っ取り早い影響力
約450ページほどある。
各章それぞれの題目に着目して解説が進むが、基本的に前から順に読んでいくスタイルの本である。というのも、後の章で語られる話題にはそれよりも前の章での話題が出てきたりするからである。
本書の話のスタイル
基本的に、各章で影響力を与えるような例とその危険性などについて述べた後、その影響力の被害に合わない方法を述べて話を終える。
影響力を与えるような身近な例や、社会的な事件などの事例を挙げるだけでなく、そのような影響力が存在することを示すような社会実験なども各章に盛り込まれている。
この本は人を動かすための武器を取り揃えるための本というよりは、そのような武器を振り回している人間からの防衛法(あるいは適切な利用と振る舞い方)を説いている本です。
この本を読んだ所感
各章の題目として既に挙がっているが、本書では
「返報性」、「一貫性」、「社会的証明」、「好意」、「権威」、「希少性」
という6つの人間の行動を司る基本的な心理学の原理を取りあげている。例えば、返報性というのは「何かをされたらお返ししなければいけない気になる感覚」のようなものだ。
それって当たり前なんじゃないの?
って思うかもしれない。しかし当たり前に思うような事柄が、生々しく人間の心に驚異的な威力で突き刺さる事例が豊富に取り上げられている。分かった気になって、大丈夫だと思っているのが一番まずい。
この本では単に著者の体験談であるというレベルの話に留まらず、社会実験についても解説がなされるため納得度も大きい。参考文献も403件取り上げられており、しっかりした本だ。
この本の言っていることの真偽(すなわち科学的に正しいか否か)はもしかしたら論文を読まなければわからないかもしれない。が、そんなことはこの際どうでも良い…。
自分の人生のどこかでこの知識が役に立てば良いのだ。ここで学んだことが、人生のとある場面でふと(例外的でも)出てこれば、知っていて良かったとなる。そして、本を読んでからよくよく実生活の中で本書の内容を意識していると、まさにそうだ!と思うシーンは多々ある。
特に「好意」の影響力は絶大である。「好意を持たれる」とそれだけで自身の影響力は絶大になるのだが、特に自ら相手に好意を示すと本当に相手もそれに応えてくれる。
相手に好意を示すことはビックリするほど人間関係を円滑にしてくれる。これはいやらしさも無く、誰でもすぐに実践でき、かつ効力も高い。一番やりやすいのはお世辞である。
是非読んでから、単なる知識としてでなく、世の中と照らし合わせながら観察してみると良いと思う。
副読本
副読本としては以下の2冊が販売されている。
ボクは「影響力の武器 戦略編:小さな工夫が生み出す大きな効果」の方は所持しているが、「影響力の武器 実践編─「イエス!」を引き出す50の秘訣」は持ち合わせていない。
なので、戦略編の方だけについて述べる。
- 作者: N.J.ゴールドスタイン,S.J.マーティン,R.B.チャルディーニ,安藤清志監訳,高橋紹子訳
- 出版社/メーカー: 誠信書房
- 発売日: 2009/06/09
- メディア: 単行本
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- 作者: スティーブ・J.マーティン,ノア・J.ゴールドスタイン,ロバート・B.チャルディーニ,Steve J. Martin,Noah J. Goldstein,Robert B. Cialdini,安藤清志,曽根寛樹
- 出版社/メーカー: 誠信書房
- 発売日: 2016/07/15
- メディア: 単行本
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まず結論として「影響力の武器 戦略編」は必須ではないと感じた。
間違いなく言えることは、「戦略編だけを買って読む」というのは絶対にオススメできない。読むとしたら、「影響力の武器」本体を読んでからである。
こちらは大体、1章が「3〜6ページ」でそれぞれ完結する小話というイメージである。事例は具体的であるが、これらが上手く通用する背景が、戦略編一冊では全くわからない。
影響力の武器本体を読んでから、6つの原理がどのように使われるのかを実用的な具体例を通して復習したいときに読めばいいと思うし、最悪別に読まなくてもいいと思う。
今回紹介した「影響力の武器」本体1冊をしっかり読みこめばそれだけで十分すぎるほど大きな学びになる。
ガチガチの理系人間であるボクが、社会心理学であるとか、行動経済学であるとか、この手の分野に興味を抱いたきっかけとなった一冊である。